スピルバーグの映画「ミュンヘン」は2005年の作品。
内容は1972年のミュンヘンオリンピック事件後のモサドによる黒い九月に対する報復を描く。ジョージ・ジョナスによるノンフィクション小説『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』を原作とし、トニー・クシュナーとエリック・ロスが脚本を担当した。
これは一級のサスペンスであり、ドキュメント風映画であった。
同じ2005年の作品に『パラダイス・ナウ
』(仏・独・蘭・パレスチナ/2005年/90分/カラー/がある。パレスチナの幼馴染みの二人の若者が自爆攻撃に向かう48時間の葛藤と友情を描いた物語があったが、これが「ミュンヘン」のほとんど陰に隠れていた。
パレスチナの紛争地帯で、命がけでロケをしたという。
眼下に広がるパレスチナの街が瓦礫だらけだが、美しい。
俳優たちが実にリアルな演技をしている。本当に演技なのかと、疑うほど。
こちらはスピルバーグと真逆の側から描かれた作品なわけだ。
アカデミーショーの授賞式前には自爆攻撃により亡くなった人のイスラエルの遺族たちが、テロを支持する映画ということでノミネート中止の署名運動も起きた。アカデミー賞は、これまでパレスチナは国家ではないと言う理由でパレスチナ人監督のエリア・スレイマンによる『D.I.』を選考対象から除外してきましたが、この映画はヨーロッパ各国との合作と言う事でノミネートされた。
アブ・アサド監督は「物事を“邪悪”と“神聖”にわけるのはナンセンスだ。私は複雑きわまりない現状に対する人間の反応を描いているのです」と語っている。
この2本、続けてみると、紛争というものを少しは冷静な立場で見られる。少しは。
終わりなき聖戦。
互いに背負うものがあるから、やっかい過ぎる。
人間は哀し過ぎる。