こぶ平=林家正蔵 本寸法の身の丈

年に一度の大イベント「大銀座落語祭」の中の銀座ブロッサム 中 央 会 館の12時の階にコント赤信号渡辺正行くんのマネージャーさんから電話があり、見学に行ってまいりました。
 今日の出演者はまさに夢の競演。
 トップが渡辺正行くんの「時そば
 彼は明治の落語研究会出身であることはすでに有名であるが。落研では志い朝という当時、芸名で、それは三宅祐司さん、志の輔さんから継がれた名前で同時期、法政大学の落語研究会の僕の芸名も志い朝。みんなお笑いの世界に入っているというのもご縁なのである
 さて、 何せ、トリは桂三枝さん、その前に笑福亭仁鶴さん、その前が林家正蔵さんと大看板を控えている。このプレッシャーはいかなるものか、落語ファンならずとも理解できるでしょう
 ところが、渡辺くん、実に落ち着いた物腰で登場。彼の18番「時そば」を途中、途中、飽きさせないくすぐりを入れながら、いわば、前座のあたため役として、ほどよく客席をあたためた。いつもにない品さえ感じたのです(笑)
 年寄りが疲れないもっさりした口調。ボケる時は伝家の宝刀、コントで鍛え上げられたあのバカ顔(笑)をお茶目に繰り出す。
 これは次に大ネタをやる正蔵師匠へのロナウジーニョ級のナイスパス。
 出囃子で登場してきた時は「ヨッ!」と掛け声をかけた。この辺は一応、長年のナベちゃんとの友情の証(笑)
 それで笑いが客席に起きて、彼もリラックスしたと、終わった後の楽屋話で渡辺くんはホッとして気持ちいい顔で語っていた。
 渡辺くんはこの高座が終わった後、三宅祐司さんと出てる「熱海五郎一座 楽曲争奪ミュージカル静かなるドンチャン騒ぎ 」のお芝居が今夜もあるのだ。
 今、渡辺正行はお笑い街道をテレビだけではなく「板の上」でも再び、疾走し出している!「熱海五郎一座 楽曲争奪ミュージカル静かなるドンチャン騒ぎ 」ではなんでも、商業演出家としても今や有名なラサール石井くんとの二人だけの掛け合いのコントがあり、コント赤信号健在と息巻いているらしい。もちろん、小宮くんはお芝居の名バイプレーヤーとして大活躍!なんたってイギリスに芝居の勉強のため、国に認められ、留学までしているのだ。知ってました?

 で、これからがすごい!
 林家正蔵師匠。
 僕はこの人がこぶ平の名で前座の頃から春風亭小朝さんの本牧亭の独演会で見ている。当時、二つ目の小朝さんを僕は思いっきり追っかけていた。もう、26、7年前の話ですが
 何しろ、昭和30年生まれの小朝さんは僕が同年代の芸能関係者でユーミン、達郎氏以外に20代前半に、絶大なる感動と尊敬と供に、僕の己の才能に愕然とした気持ちを味合わせてくれた御仁。
 しかしながら、天才の成長期の過程をまじかで見られた至福を1メートル圏内で見られた時間は何よりも変えがたい体験だった。当時、ご自宅の小朝さんのお母さんに「息子さんは天才。天下取ります」と礼儀正しいストーカーぶり(笑)。三日をあけず、毎夜三時間くらい小朝さんのお母さんと電話でお話をさせていただいた。
 このお母さんがまた、明るくお優しい、しかも、おしゃべりのうまい方でそれ自体が高座のような思いで聴いていた。
 小朝さんのしゃべりの源はお母さんだったのかもしれない。
 その小朝さんに可愛がられていたのがこぶちゃん。
 当時、お世辞にもうまいとは言えなかった。
 それから、うん十年後、僕はテレビ朝日の「目撃ドキュン!」(ラサール石井くんと田中律子くんが司会)といういわゆる御対面もの、壮絶な人生の涙ものの番組を担当していて、そのレギュラーコメンテーターが当時の林家こぶ平さんだった。僕はこぶちゃんと気安く呼んでいた。
 こぶちゃんがその頃、独演会を頻繁に開くようになっていった。以前よりまして、真剣に落語に取り組む出したのだった。
 「こぶちゃん、絶対、子別れをやってほしいんですよ。絶対、むいていると思うんです」同じことを会う度にお願いした
 子供、お母さん(女房)の役はこぶちゃんにぴったりだと思ったので、自然、「子別れ」がこぶちゃんには相応しいと、思ったのだった。舌ったらずの子供の台詞、そして、こぶちゃんの定番の涙目が「子別れ」にはむいていた。
 いよいよ、その「子別れ」が聞ける
 林家正蔵登場。
 それはもう、出から、綺麗であり、華麗であった。着物がめちゃくちゃ似合う噺家になっていた。 今、現存する噺家の中で一番、お洒落な着こなしだ!
 そして、噺に入った。
 形が綺麗だ!
 なんだ、これは!
 うれしい悲鳴!
 小朝さんの前座をしていたこぶちゃんと同じ人間なのか?
まったく、あの頃と別人28号!
 くさくなりがちな「子別れ」の演出をタズナを引くように感情を食い止める。子供のボケに対する父親のリアクションも言葉を発せずに表情と呼吸だけでリアクションする。
 相当の稽古があったはず。
 名前の力、名前の魔法を見た。
 「林家正蔵」という身の丈にこぶちゃんは、その稽古量で原寸大にいつの間にかなっていたのだった。
 間違いなく、この男は「林家正蔵」 襲名するに相応しい噺家に成長していた
 いやあ、まいったなあ。
 ここで休憩が入り。
 その後が、笑福亭仁鶴師匠の弟子笑福亭仁嬌さん。
 この人のマクラの小話がおもしろかった。
 相当、腕のある人でまた絶対、この人を見てみたい!
 で、いよいよ仁鶴師匠
 初めての生仁鶴師匠。
 噺は「崇徳院」。まるで凪のような静寂な空気で噺をしていく。決して、ハッてしゃべらない。しかし、要所、要所のくすぐりがその間だけで受ける。芸ってこれか!こんな噺家みたことない。
 すごすぎる!仁鶴師匠
 さらに三枝さん登場!
 押して知るべし
 最後に楽屋でこの場をプロデュースした小朝さんに御挨拶。このメンバーは小朝さんだからこそ、組めたメンバー。そのプロデュース力は落語界のクインシージョーンズだ! 
 シテヤッタリという表情の小朝さん。
 うれしそうであった。