山田太一さんとの文通


亡くなった山田太一さんのこと。
山田さんとはお忙しいと思い、電話を避け文通させいただきました。
山田さんからのお便りはいつも万年筆のくせのある文字でした。
図々しいボクでさえ 山田さんの巨匠ぶりがさすがに気軽に ご自宅に電話できるお相手ではありませんでした。(ご本人は常に相手にへりくだった方でした)
それ以前に山田さんは携帯をもっていらっしゃいませんでした。
しかし、FAXは仕事上、お使いになっていました。

ところが3年くらい前から、山田太一さんとボクの文通はボクの一方的なものになってしまいました。
なぜかと申しますと、どうしても山田さん聞きたいことがありまして、ご自宅に電話を差し上げました
初めて奥様の清らかでいて、しっかりなさったお声を聴きご病気であることを知らされました。
いや、そんなわけがないと不思議な気持ちになりました。
それから山田さんのことは他言はしませんでした。
この3年間、意外にもマスコミにご病気のことはほぼ話題にならなかったことが不思議です
万年筆をお持ちになれないのはさぞかしお悔しいだろうなあと(山田さんは手書きです)比較するのもおこがましいですが、作家に<位>(くらい)があるとすれば底辺を這いずり回っているボクでさえ自分の原稿を書けないと想定して悲しくなりました。
ボクはとんだナルシストです

どうしてボクのようなものがそもそも山田太一さんと文通するようなことになったと申しますと
ボクは以前、ラジオ日本のラジカントロプス2.0という番組で企画ブッキング構成司会をやっておりました。
山田さんはその番組に何度かご出演なさってくださったり、相当マニアックな企画でしたが。
BGM。
バックグラウンド・ミュージックの略称。
アメリカにおいて「ミューザック」、「エレベーター・ミュージック」と呼ばれていた公共空間への音楽配信サービスの「エレベーター・ミュージック」の本の著者の田中雄二さんをお呼びし特集した回をラジオ日本の番組審議員をなさっていた山田太一さんや市川森一さんにお褒めの言葉をいただいことからでした。
山田さんのお書きになるドラマはもちろんのこと、多数出版なさっている随筆の大ファンでまるで聖書のように何度も読むほどのもともと山田オタクでした。(松本清張とともに)

山田さんはその随筆に自分は食べ物のことをあまり書かないと書いてあった。
安易に食べたものを書くのは品がないと。
山田さんの世代の多くが戦争のせいで食べるのも、ままならない世代だったことが大きいと思った。
ボクは自戒を込めて、この品がないという言葉にいたく同調した。
グルメならまだしも山田さんは食べ物の随筆でこれが絶品だとか、
わかったことを安易にいうのは下品だと書いてあった。
その行を読んで以来、三文ブログに自分の食べたものを紹介しても決してうまいまずいは
絶対書かないことを真似ている。
山田さんは偉そうに<わかったようなことをいう人間>を一貫して嫌っていた方でした
※写真は2009年にラジカントロプス2.0に山田太一さんご出演された内容が朝日新聞全国版に掲載された時の写真