つまみはアド街のナレーションの声で


 テレビの世界で仕事をして、わくわくする瞬間のひとつに、一流のナレーターさんと音効さんとの出逢いがある。作曲をしているせいか、音に敏感なのだ。特に、ナレーターさんは以前から声を聞いて知って、尊敬している方は特にわくわくする。自分の書いた原稿がそのナレーターさんの声と技で5倍くらいに良質に水増しできる。その時は本当に感謝の気持ちでいっぱいになる。お笑いの人が自分の原稿通りギャグを言って、きっちり受けてくれた時もそういう気持ちになる。とても、得した気分になる。最初に一流のナレーターさんにお会いしたのは槙大輔さん。この方は僕の高校(函館ラサール高等学校)の先輩にあたる方で、この方の声を聞かない日はないくらいの人気ナレーターである。そのちょっと、渋い声は、おいしい日本茶のような魅力である。
ナレーターさんの世界はほとんど、何人か、限られた人々の現在独占状態なのである。それには理由があって、もちろん、「うまい」ことが当然であるが、仕事が速い。このことが、スタジオを時間契約して局や製作会社にとって、とても大切なナレーターさんを選択する判断材料なのである。
やはり、その独占企業の一人ナレーターの武田広さんと初めて、お仕事をさせていただいた。正月2日のテレビ東京の番組「日本縦断!癒やしの温泉ほっこり湯宿大賞」10時30分放送である。
武田広さんといえば、タモリ倶楽部テレビ朝日)○(フリーになってのデビュー作) 出没!アド街ック天国テレビ東京)で有名。その他にも
世界まる見え!テレビ特捜部日本テレビ
いつみても波瀾万丈日本テレビ
行列のできる法律相談所日本テレビ
チューボーですよ!(TBS)○
真相報道 バンキシャ!(日本テレビ
ビートたけしのTVタックルテレビ朝日
と、等など、長寿番組のナレーターである。
「ナレーションって、ジオラマなんですよ。温度を感じさせたいんです」と、武田さん。
武田さんのナレーションには温度がある。ほど良い、お酒で言うと、温燗(ぬるかん)の温度である。武田さんのこの声の温度が、「出没!アド街ック天国テレビ東京)」や「チューボーですよ!(TBS)」のグルメ番組には適役なのである。画面の料理に声のあったかな調味料がかぶされるのだ。ほくほくして、料理が見えてくる。温泉の映像も武田さんの声が温度を与える。
「煽る(あおる)ナレーションって嫌いなんですよ。恥ずかしくなるんですよ」
最近、やたらとバラエティのナレーションで過度に煽る。煽るナレーションは文章も味がない。たかが、テレビかもしれないが、ナレーション原稿に文学性がない。テレビの原稿でも文学性を持たせたいと偉そうに少しは思って書いているつもりだ。もちろん、書籍の文学性とは、異にするものであるが。
ナレーターの方はあまり、演出陣と飲む機会がないという。ナレ録りをした後に、「お疲れさま」とナレーターの方は帰り、その後の処理が演出陣はるからだ。本番は生で、ナレーションを入れない限り、ナレーターとはもう会わないわけだ。考えてみると、孤独な作業だ。
昨日は大晦日、武田さんを飲みに誘った。お酒は飲めないというが、付き合ってくださった。
時刻表マニアであり、地下鉄の地図を見ているだけで、血が騒ぐこと、消防署が好きで、わざわざ、高尾の田舎の消防署を見学に行くこと、警察マニアでもあること、ラジオライフの熱心な読者であること、僕と唯一共通点は八ヶ岳の自然が好きなどの自然が好きなこと。
武田さん、ご自身でやっているタモリ倶楽部に出演すべきネタの宝庫である。新橋の居酒屋で、無料で、「武田広のナレーション声」をつまみに酒を傾ける。最高の大晦日だった。

※写真は武田広さん