「お前は蟹工船か!」

小林多喜二の『蟹工船』(新潮文庫)が売れている。テレビでも騒いでいる。
昭和4年に刊行されたプロレタリア文学なのだ。
岩波文庫からも出版されているが、新潮文庫が圧倒的な売れ行きで50万部だという。
なんで今更、『蟹工船』が?
僕がこの本を、若い頃の読書の通過儀礼として目を通したのは昭和40年代だった。左翼といった言葉がフツーに出回っていた頃で、とりあえず、読んでおかないと、
いつなんどき、この本の話題が出るやもしれないという時代だった。
しかし、その頃の僕にはピンと来なくて、途中で読書を断念した想い出がある。
ま、幼いせいか、読みきれなかったのかもしれない。
 その後、僕はお笑いのネタの台本で「お前は蟹工船か!」と突っ込みの原稿を書いたことが度々あった。これはなんとなく、蟹工船のことがインプットされていて、蟹工船=ビンボー=悲惨の代名詞のイメージがあったのだと思う。当時としても古いネタだったのだが、蟹工船の本のこともまだ、お客さんの何人かは知っていて、笑ってくれた時代だった。
今週、新潮文庫の広報宣伝課の部長伊藤幸人さんに立ち話で、その秘密をお聞きした。
 この本の火付け役は上野の本屋さんなんだそうだ。
小さい紙に本の推薦を書く、いわゆるポップと言われるものがある。
それをつけて、売り出したところ、じわじわと売れ出し、同じ内容のポップを各店舗で
出したところ、大ヒット!
 若い人には新潮文庫の懐かしいロシアチックな表紙がアートとして受けたらしい。
確かに岩波文庫と比べると、柔らかい味わいで特に女性好み。
 ブームの背景には「ワーキングプア」と呼ばれる人々からの共感もあるという。
 プロレタリア文学なのに、50万部という売れ行きはこの不景気に実に出版社にとって景気のいい話で、なんとなく、そのことを伊藤さんは照れておられた。
 考えてみると、小説の著作権を日本では日本は最短期間である死後50年を採用しているので、作者小林多喜二が亡くなったのが1933年。死後 50年以上立っているので
著作権は出版社にあることになる。いよいよ、景気のいい夏である。
 プロレタリアといえばロシア。僕も昭和30年代にガキの頃、赤星赤軍合唱団が歌うロシア民謡カリンカ」の物真似をギャグでよくしたもんだった。確か、日本テレビシャボン玉ホリデー」でもこの映像を真似た「カリンカ」のお呼びでないのコントを見た記憶がある。