テレビの世界で仕事をして、わくわくする瞬間のひとつに、一流のナレーターさんと音効さんとの出逢いがある。作曲をしているせいか、音に敏感なのだ。
特に、ナレーターさんは一方的に以前から声を聞いて知って、尊敬している方にスタジオの現場でお会いするとわくわくする。
自分の書いた原稿が一流ナレーターさんの声質と技で5倍くらいに良質に水増してもらえる。
その時は本当に感謝の気持ちでいっぱいになる。お笑いの人が自分の原稿通りギャグを言って、きっちり受けてくれた時もそういう気持ちになる。
最初に一流のナレーターさんにお会いしたのは槙大輔さん。
この方は僕の高校(函館ラサール高等学校)の先輩にあたる方で、この方の声を聞かない日はないくらいの人気ナレーターである。そのちょっと、渋い声は、おいしい日本茶のような魅力である。
ナレーターさんの世界はほとんど、何人か、限られた人々の現在独占状態なのである。
それには理由があって、もちろん、「うまい」ことが当然であるが、仕事が速い。このことが、スタジオを時間契約して局や製作会社にとって、とても大切なナレーターさんを選択する判断材料なのである。
やはり、その独占企業の一人ナレーターの武田広さんと初めて、お仕事をさせていただいた。正月のテレビ東京の番組「日本縦断!癒やしの温泉ほっこり湯宿大賞」。
武田広さんといえば、タモリ倶楽部(テレビ朝日)○(フリーになってのデビュー作)
出没!アド街ック天国(テレビ東京)で有名。その他にも
チューボーですよ!(TBS)○
と、等など、長寿番組のナレーターである。
「ナレーションって、ジオラマなんですよ。温度を感じさせたいんです」と、武田さん。
武田さんのナレーションには温度がある。ほど良い、お酒で言うと、温燗(ぬるかん)の温度である。
武田さんのこの声の温度が、「出没!アド街ック天国(テレビ東京)」や「チューボーですよ!(TBS)」のグルメ番組には適役なのである。画面の料理に声のあったかな調味料がかぶされるのだ。
ほくほくして、料理が見えてくる。温泉の映像も武田さんの声が温度を与える。
「煽る(あおる)ナレーションって嫌いなんですよ。恥ずかしくなるんですよ」
最近、やたらとバラエティのナレーションで過度に煽る。煽るナレーションは文章にも味がない。
たかが、テレビかもしれないが、ナレーション原稿にも文学性が必要だ。
もちろん、書籍の文学性とは、異にするものであるが。
ナレーターの方はあまり、演出陣と飲む機会がないという。
ナレ録りをした後に、「お疲れさま」とナレーターの方は帰り、その後の処理が演出陣はあるからだ。
本番は生で、ナレーションを入れない限り、ナレーターとはもう会わないわけだ。
考えてみると、ナレーターはマカロニウエスタンのクリントイーストウッドの用心棒のように孤独な作業だ。スタジオを次から次と渡り歩き、去って行く。
放送作家の仕事もナレ録りが終わるとスタジオに用がないので、大晦日の収録後、武田さんを飲みに誘った。
お酒は飲めないというが、付き合ってくださった。
時刻表マニアであり、地下鉄の地図を見ているだけで、血が騒ぐこと、消防署が好きで、わざわざ、高尾の田舎の消防署を見学に行くこと、警察マニアでもあること、ラジオライフの熱心な読者であること、僕と唯一共通点は八ヶ岳の自然が好きなどの自然が好きなこと。
武田さん、ご自身でやっているタモリ倶楽部に出演すべきネタの宝庫である。新橋の居酒屋で、無料で、「武田広のナレーション声」をつまみに酒を傾ける。最高の大晦日だった。
その 後 2011年にボクが企画司会の「ラジカントロプス2.0」(ラジオ日本)の番組に武田さんにゲストで来ていただき、根掘り葉掘り 武田さんの半生を聞き、タモリ倶楽部の名物コーナー「ドラマシリーズ 男と女のメロドラマ 愛のさざなみ」のナレーションとか ボクの台本で再現していただいた。
※武田さんは2019年10月18日放送分を最後に、開始以来40年近く担当してきた『タモリ倶楽部』を降板。
※追伸 タモリ倶楽部のオープニングの映像のお尻フリフリダンスがアイデアがいいが、お尻の選定がいただけない。お尻にも顔があって、健康的でなく セクシーでもない 貧相なお尻が並んでいた。選考したスタッフとボクの美意識の違いといえばそれまでだが、ボクの美意識に合わなかったことは事実。
なお、Wikipediaによるとお尻は女性、初期には男性もあったと書いているが本当か????