人はどうあがいても老いる 木下晋展

 「人はどうあがいても老いる」
 美術家木下晋の絵の魅力はこの当たり前のことに決して目を背けたり、瞑ったりしないことだ。
 だから、人は皆、一様に、平等に悲しい 
 東銀座の永井画廊の木下晋の展示会で木下晋原画、作山中恒の「ハルばあちゃんの手」を見て特にそれを思った

 「昨年夏、「ハルばあちゃんの手」(福音館書店刊行)と題される山中恒氏の原稿を手渡された。少し内容に触れると、貧しい漁村に生まれ育った主人公のハルと勇吉が幼き日に出会う。長じて結婚し洋菓子店を営むも後継者に恵まれず一代限りで閉めざるを得なかった。だが時代に翻弄されながらも幸福な人生を全うする"大河ドラマ”の様相に、私はこれを絵本にするべくモデル探しの旅に出たのである。
 能登半島の曽々木地区海岸を散策していた時、偶然漁師のK夫妻に出会った。激動の時代を寄り添う様にヒッソリと佇み八十年を超えた歳月の重さが顔に刻印され、笑顔は例えようもなく美しいのである。正に絵本のイメージがピッタリ重なった。モデルを快諾してもらって尚、”一緒に死ぬことはできんもんなあ・・・。”一瞬K夫人が見せた悲しいまでの呟きは、しかし私は見逃せなかった。だからこそモデルを依頼したのである。(絵本原画展に寄せて 木下晋)」

 この画像は「ハルばあちゃんの手」の中の最初の絵でハルばあちゃんが赤ん坊の絵だ。
 人はみんな赤ん坊だったことを忘れている
 この最初の一枚で僕の視覚の絵がにじんでしまった