静かな男

猪木のものまね芸人・春一番が肝硬変のため亡くなった。

春一番くんが片岡鶴太郎さんに弟子入り仕立ての頃、すぐ鶴太郎さんに紹介され、毎週のように、鶴太郎さんとネタのことで打ち合わせし、深夜2時、3時まで、師匠の車の運転手として外で待っていてくれた。当時、バラエティ班でその後、W浅野ブーム「抱きしめたい」のフジテレビの演出家さんもよく、同席なさっていた。
 もちろん、春一番くんとは鶴太郎さんと、一緒に食事もした。しかし、大概、外で師匠の打ち合わせが終わるまで、待機して、師匠を自宅で落としてから、そのまま、横浜の僕の家まで彼が乗せていってくれた。次の日、また、早くから、師匠の仕事でまた迎えに行かないと行けないのに。横浜までの帰宅の道中、なんだか彼といると、おだなかや気分になった。少しは師匠の愚痴を言ってもいいのに、こちらが、少しガス抜きしてあげようと、水を向けても決して、春一番くん(ぼくらは春一と呼んでいた)は師匠の愚痴は言わなかった。師匠のことを心底、尊敬していて、頑なに愚痴を何も言わなかった。冗談でも愚痴を言わなかった。静かな男だった。
 それが後年、アントニオ猪木の真似でブレークした時は、うれしかった。
 反面、彼にはあの時、お世話になっておきながら、何もしてあげられなかったことを後悔した。
 春一が酒を飲む時のおいしそうな顔が忘れられない